【シン・ウルトラマン解説・感想・考察】 その2 ~人類学から考察するメフィラス星人~知ってるとより楽しめる!(大いにネタバレを含む)

感想

前回の続き

次ページからネタバレを含むので注意

【山本耕史のメフィラス】

メフィラスは原点の「自称暴力嫌いで沸点が低い小太りおじさん」ではなく,まさに彼が自称する紳士的態度で淡々と地球を狙ってくる不気味で恐ろしいメフィラスとなっていた.山本耕史氏の演技によるものが大きいのだろう.

「地球をあげます」が本作ではあのような形で表現されて,よりおぞましいものになっていた.「私を上位の存在としておいてくれ」,日本政府はザラブの件で疲弊してよもや彼と交渉するだけの体力が残っていないように見えた.ザラブにとってはここまでが計算のうちだったのだろう.

ウルトラマンはあくまで地球人を本などから地道に学び,過干渉をせず人間に敬意を称してくれているからこそ出ているあの無表情なのだと感じた.一方メフィラスは違う.地球人を学び,名刺を用意し,居酒屋でウルトラマンとさしで飲みをする.にこやかに笑いどこまでも人間に寄り添っているように見せかけ,懐に入り込もうとしている.交渉決裂後は財布の中身を一度見て,割り勘を提案してくるあたりどんだけ人間になじんでるんだお前はと突っ込みを入れたくなるほどだ.私も浅草一文で晩酌したい.

【メフィラスと『野生の思考』】

メフィラスはベータシステムによって地球人類の巨大化による対敵性外星人からの自衛計画を交渉材料にしてくる.その目的は力でも知恵でも外星人には叶わず,地球人類は外星人に無条件に従うしかないとわからせ,生物兵器に転用できる資源である人類を独占管理する,というもの.

神永が油を売りに行っている際に読んでいた本は「野生の思考」という本だ.これは20世紀最大の人類学者と呼ばれる文化人類学者のレヴィ・ストロースの著書で,構造主義という全く新しい方法を用いて,未開拓社会にも文明社会に匹敵するような精緻で合理的な思想が存在することを論証したものである.ヨーロッパ圏における効率性や概念に重きを置く「科学的思考」とは別に存在するとしているのが「野生の思考」であり,これは自己と他者,自然物との関係を具体的な象徴として表現することで認識する志向のことなのである.

レヴィ・ストロースはこの本を通じて当時の自民族,西洋中心主義への非難,そして未開拓人と称されていた人々の存在の再認識を提唱していた.つまり,これは植民地主義への批判でもある.植民者は被植民者よりも優れていて,この植民地支配は近代化に必要な発展に繋がる大きな利益になる,そういった侵略を正当化する論理への批判である.

これは劇中メフィラスが行ったことそのものであることが明らかである.

また地球人類もウルトラマンという地球の平和のために戦う象徴的存在を通して,彼という他者との関係性,そして自らの課題を認識,解決しようということがこの作品を通して描かれているのだ.

【ゼットンを操る宇宙人ゾーフィ】

メフィラスがウルトラマンの背後にいる金色に黒いラインの存在,ゾーフィに気が付き「さらばウルトラマン」という.今思うとメフィラスは光の国がどういうポジションにいるものなのかをよく知っているようだったので,この時点でのちの展開は予想できたのだろう.

ゾフィーの登場は主題歌「M八七」から予想はされていた(ゾフィーの必殺技はM87光線)しかし,その姿や役割は原点とは大きく異なった.

ゾフィーといえばウルトラ兄弟の長男で,宇宙警備隊の隊長.ゼットンに敗れたウルトラマンを迎えに来た存在だ.見た目はウルトラマンに似ているが,胸に多大な貢献をしたものに贈られるスターマーク勲章という光の国の最高名誉勲章である「つぶつぶ」がついているのが特徴.しかし,今回登場した“ゾーフィ”はまるで別人だった.ベースの金色に黒色のライン.ウルトラマンと同じような姿なのに,彼からは威圧感と恐怖を感じた.本来ウルトラ戦士というのはあくまで外星人であり,地球人に対しここまで冷酷になれる存在なのだと示してくれた.メフィラスやゾーフィが語る「マルチバース全体に地球が兵器転用できる価値を示した」というのは一体どういった意味なのだろうか.このマルチバースにはテレビシリーズのM78 スペースやネオフロンティアスペースなども含まれているのだろうか.

ゾーフィという名称は本作が初出典ではない.過去に児童誌にこのような記述がされたことがある.「ゼットンを操る宇宙人ゾーフィ」と.原点ではゼットンはゼットン星人が地球侵略のために連れてきた宇宙恐竜だ.これは児童誌のミスだったのだが,今回これが公式のものになってしまうという壮大なネタなのだが,こんなの気が付いて笑えるのは一体どの客層なんだよ()といった感じだ.

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【天体制圧用最終兵器『ゼットン』】

これは全くの予想外.大番狂わせもいいところだった.まさかゼットンが出てくるとは.もともと生き物というより人工物的な側面を持っていた怪獣だったが,今回完全な兵器として登場.そして光の国のものというのが驚きだ.おそらくこのデザインにももととなる何かがあるのだろう.建築とかね.私はこのフォルムを見てパワードゼットンを思い出した.あの機械的なデザイン,設定上ウルトラマンパワードのおよそ倍の体長だった.今回のゼットンはとにかくでかい!あのウルトラマンが小人に見えるくらいの大きさだ.衛星軌道上に浮かぶゼットンを地上からはっきり目視できるあの表現は刻一刻と地球完全リセットへのカウントダウンが迫っているのを感じさせる緊迫感が伝わってくる.

ゼットンは1兆度の火球を吐くことでも有名だが,1[TK](テラケルビン)という数字は凄まじい.「1兆度の火球を地球上で放ったら,地球どころか太陽系が蒸発し,数光年先まで影響を及ぼす」とか本編中でも語られていたが,これも空想科学読本ネタかなとか思っていた.

【シンユニバースをつなぐ竹野内豊氏】

シン・ゴジラに登場した内閣総理大臣補佐官,国家安全保障担当 赤坂秀樹こと竹野内豊氏.なんと今回のシン・ウルトラマンでも登場する.彼が赤坂秀樹なのかは劇中で語られることはなかったが,前作同様に現実主義であり,各国への根回しを怠らない慎重さを見せる.ゴジラに対し「名前なんてどうでもいいでしょう」と言っていた彼だが,今回ウルトラマンに対しても巨大不明生物と呼んでいたのか是非とも知りたい.

【ベータシステム】

自暴自棄になる科学担当の滝君.ウルトラマンがいれば全部解決する,我々が何かしても意味がない.そう語る彼の姿は原点「ウルトラマン 第37話小さな英雄」のイデ隊員を思い出す.

「仕事の事さ.我々,科学特捜隊がどんなに頑張っても,結局敵を倒すのはいつもウルトラマンだ.僕がどんな新兵器を作っても大抵役に立たんじゃないか.いや,新兵器だけじゃない.我々科学特捜隊もウルトラマンさえいれば必要ないような気がするんだ.」

ハヤタは彼に言う「馬鹿を言え.棚から牡丹餅式で勝利が得られるか.ウルトラマンは我々が力いっぱい戦った時だけ力を貸してくれるんだ」とそういう一幕がある.

前述したが,ウルトラマンを通じて人類の弱さを痛感し,そして人類の持つ強さも同時にここでは体現することとなる.

ホワイトボードに記された計算式からは多次元空間における光の伝搬,空間曲率や状態方程式などの宇宙パラメータ,高次元超重力理論などが書かれていたように思える.ここは一時停止でいずれゆっくり確認したいところだ.

本作は登場人物たちも滝君以外この理論にあまり理解していない描写があるので,観客は考えなくていいものなのがシュールだ.「ウルトラマンが変身してからもう一度ベータカプセルを点火させると,1ミリ秒だけ別次元へ穴が開く.そこにゼットンごとこの宇宙から追放することが可能」

さらに簡単に言えば「変身してからもう一度変身してこぶしで殴る」

なんて雑な作戦なんだ()

・【ブラックホールに吸い込まれるウルトラマン】

ゼットンを別次元へ追放したウルトラマンだが,そこにはインターステラーなどでも描かれた近年描写されているブラックホールが登場.必死に抵抗するもウルトラマンは吸い込まれていき,消滅した.

その様は1997年の作品「ウルトラマンダイナ」の最終回を彷彿とさせるものであり,当時1歳だった私に強烈なトラウマを焼き付けたあのシーンに酷似した本作でも目から涙があふれてきたのである.地球人類滅亡の危機に,強大な敵へ立ち向かっていくウルトラマン.彼以外すべての人が助かるというその姿はヒーローの抱える切なさを今も感じるのだ.

・【ウルトラマン,そんなに人間が好きになったのか】

人類が自らの生存を懸けて英知を結集し,ウルトラマンとの固い友情によりつかんだ勝利.これの結果,ゾーフィは廃棄処分撤回を決定した.

原点ではウルトラマンとハヤタの分,命を2つもって現れるゾフィーなのだが,今回はそう言った話はなかった.あくまで神永を生かしたいというウルトラマン=リピアの希望を聞いたゾーフィはウルトラマンと神永を分離,というか話を聞く限りだと命を渡し,肉体を与える感じだったように思える.

つまり,神永は命を与えられ,その肉体は人間としてというよりはウルトラマンの肉体を譲り受けたという感じなのだろうか.もともとウルトラマンの着地の余波で死んでしまった神永.命,つまり精神はかろうじて生きていたが,おそらく肉体はどうしようもない状態までダメージを受けてしまったのだろう.新たに用意できるものはない.神永を蘇らせるという行為は,肉体を与えるということでもあるはずだ.

最後に目覚めた神永にウルトラマンと融合していた時の記憶はあるのだろうか.ハヤタは完全に忘れていた.そして,彼の体は果たして地球人と言えるのだろうか.ベータカプセルがもしまた彼の手元にくることがあれば,彼はウルトラマンへ変身することは可能なのだろうか.今の彼はもしかすると,融合型から平成以降の人間ウルトラマン型へなっているのかもしれない.

・【総評】

これだけ語ることがある非常に充実したいい映画だった.非常に楽しめた.往年のファンも楽しめるのだが,どちらかと言えば「オタクが限りなく一般人が理解できる特撮作品を作るか」ということへ挑戦した作品のようにも思える.樋口監督も庵野総監督も絶対この作品を一般大衆すべてに刺さる映画として作ってはいないと思う.ウルトラマンの映画を撮りたかったから作った,そう言われているようだ.

シン・ゴジラに比べるとどうしても大衆作品ではなくなってしまっているので,どこまで一般の方々がこの良さをわかってくれるのか少々心配だが,ウルトラマンを知っている人も,知らない人も十分楽しめる作品だとは思う.僕はもう少しシンゴジラ的な人間サイドの物語が見たかった気もする.今作は外星人どうしのいざこざに地球人は巻き込まれちゃった感が否めない.禍特対があらゆる作戦を練り,政府がもっと振り回されて,人間の力で脅威に対抗してほしかった気もする.

とりあえず私は2回目を近いうちに見に行くことになるだろう.総合してこの作品は私に非常に刺さった.大満足.

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